好きの代わりにサヨナラを《完》
本当にこれでよかったんだろうか。

リハーサルはマネだけで、キスするのは本番一発勝負。

メイクさんに肩まで届かないくらいの長さの髪をセットしてもらって、黒縁の眼鏡をかけた。



「本番行きます」

あたしは胸に手を当てて、大きく息を吸った。

「よーい、アクション」

制服姿の恭平はもう役に入り込んでいる。

海に向かって立っている背中が、少し寂しげに見えた。



『どうしてここに来た……?
もう会わないって言っただろ』

『会えなくなって、やっと気づいたの。
あたしは一人じゃ駄目なんだって……』

恭平は、ゆっくり振り返る。

あたしは恭平に向かってまっすぐ歩いていく。



もう迷いはない。

あたしは恭平の前で立ち止まった。
< 34 / 204 >

この作品をシェア

pagetop