好きの代わりにサヨナラを《完》
「……握手は?」

ぶっきらぼうに右手を出したまま不満げにつぶやく蒼。

本来はアイドルのあたしから手を出さなきゃいけないのに、すっかり忘れていた。

慌てて蒼の右手を両手で握りしめる。



「あ、ありがとうございます……」

あたしは彼の手を握ったまま、消えそうな声で言った。



蒼、どうしてここに来たの?
何時から待ってた??

蒼が来て嬉しいのか、ビックリしたのかわからない。
あたしの声は、セリフを棒読みするロボットみたいだった。



「何緊張してんだよ……」

いつもと変わらずぶっきらぼうな蒼に少し緊張がほぐれる。

あたしは伏し目がちにふっと笑った。



東京まで来てくれてありがとう。
そう言いたかったのに、モタモタしてたら蒼は剥がしのスタッフさんに剥がされて隣の美憂の所へ行ってしまった。



なんで一番に来たの?
ほんの一瞬しか握れなかった蒼の手。
大きくてあったかかった。



感傷に浸っている暇はない。
あたしの前には、次々とお客さんがやってくる。

あたしは緊張と動揺で震えそうになる手で握手して、目の前のお客さんにぎこちない笑顔を作った。
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