好きの代わりにサヨナラを《完》
初めての握手会もデビュー曲のお披露目も全て終わった。
緊張しすぎて、自分はどんなふうに歌ったのか全然覚えてない。



あたし、ちゃんと間違わないで踊れてた?
蒼は最後までいてくれたの?

思ってたより沢山の人が来てくれて、蒼が観客席のどこにいるのか見つけられなかった。

なんとなく満足できるパフォーマンスができなかった気がして……

それにまだグループのメンバーと打ち解けられていなくて、あたしは大勢いるメンバーの一番最後に控え室に戻った。



「さっきの……ほのかの彼氏?」

控え室に入るとすぐ、美憂に話しかけられた。
美憂はグループの中で唯一、何でも話せる友達だ。

「違うよ」

うちのグループは恋愛禁止、あたしは全力で首を振る。

あたしたちの関係をどう説明したらいいんだろう。
信用できる女友達がいないあたしにとって、蒼はたった一人の理解者だった。

何もなかったあたしにオーディションを勧めてくれたのも蒼。
彼がスマホで撮ったあたしの写真を、今の事務所に送ってくれた。

あたしは蒼の他薦で受けたオーディションに合格して、snow mist(スノウミスト)のメンバーとしてデビューすることが決まった。

蒼がいなければ、今のあたしは存在しない。
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