好きの代わりにサヨナラを《完》
昼間の中途半端な時間のせいか、新幹線を待つ人はそれほど多くなかった。

あたしは自由席の車両に並ぶ列の一番後ろについた。

鞄のポケットからスマホを取り出す。
まだ蒼からの返事はなかった。



蒼は、どういうつもりであたしの手を握ったんだろう。
彼に握られた左のてのひらをぼんやり眺める。

あたしの演技観て、どう思った?

映画の感想は一つも聞いてないし、ちゃんと別れの言葉も言えなかった。



まもなくホームに新幹線が到着しますとアナウンスが流れる。

あたしは彼のぬくもりを思い出しながら、左手をギュッと握りしめた。

新幹線がホームに入ってくる。
あたしは力なく左手のこぶしを下ろした。



「ほのか!」

遠くから呼ばれた声に振り返る。
ホームへの階段を駆け上がる蒼の姿が見えた。
< 52 / 204 >

この作品をシェア

pagetop