好きの代わりにサヨナラを《完》

冷たい瞳

いつもなら美憂と一緒に帰るのに、今日は一人で出てきてしまった。

秋の日は短い。

すっかり日が暮れて、辺りはもう真っ暗だ。

なんとなく心細くて、あたしは鞄からスマホを取り出した。
スマホの光る画面が、あたしの顔を照らし出す。



蒼、もう帰ったかな?

せっかく東京まで来てくれたのに、ちゃんと話せなかった。

風が冷たくて、寂しい季節のせいかわからない。

蒼の声が聞きたくなった。
蒼の電話番号をスマホに表示する。



後は通話ボタンを押すだけなのに、これを押してはいけない気がした。

地元を離れたことも、学校が変わったことも、アイドルになったことも後悔してない。

あの頃の自分を好きになることはできなかった。

せっかく前に進もうとしてるのに、昔の自分に戻ってはいけない。

あたしは光る画面を閉じてスマホをおろした。



あたしたちのグループは全員、事務所の寮に住んでいる。

寮といってもそんなに古い建物じゃなくて、管理人さんが常駐している新しいマンションだ。

事務所の寮に着くと、エントランスの前に二人の人影が見えた。

よく見たら、男女が抱き合っている。
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