千代に八千代に君に
気付けば、目で追ってしまう。
良く思われたい。
良くも悪くも、恋は人を変える。
恋とは、そう言うものなのだ。
良くある言葉に、『恋は盲目』とあるけれど。
それほどに、周りが見えなくなるほどに、愛するからこそ。
手に入らないと気付いた時、その痛みは耐え難いものなのである。
それが、私の自論だ。
実は、私は、精神学の恋愛を研究している学者。
さらには、大学で教授も務めているのである。
「教授!教授はその……そのような体験をしたことがあるのでしょうか?」
少し聞きずらそうに質問した学生に、私は柔らかく微笑む。
歳を取れば、辛い話も良い酒の肴になるというもの。
「ああ、私の一個人の体験談だ。要するに、学説としては、不十分だね」
何十年にも前にした、恋に想いを馳せる。
たった一度の、恋だった。
「その恋は、幸せでしたか?」
「さあて、ね。相手は、幸せになっただろうね」
常に、背を追っていた恋だった。
彼が振り向いたことはなく、立ち止まってくれたことさえなかった。
きっと、背を追っている私には気付かなかったのだろう。
鈍感で、酷い人だった。
でも、好きだった。