千代に八千代に君に




気付けば、目で追ってしまう。

良く思われたい。

良くも悪くも、恋は人を変える。

恋とは、そう言うものなのだ。

良くある言葉に、『恋は盲目』とあるけれど。

それほどに、周りが見えなくなるほどに、愛するからこそ。

手に入らないと気付いた時、その痛みは耐え難いものなのである。

それが、私の自論だ。

実は、私は、精神学の恋愛を研究している学者。

さらには、大学で教授も務めているのである。

「教授!教授はその……そのような体験をしたことがあるのでしょうか?」

少し聞きずらそうに質問した学生に、私は柔らかく微笑む。

歳を取れば、辛い話も良い酒の肴になるというもの。

「ああ、私の一個人の体験談だ。要するに、学説としては、不十分だね」

何十年にも前にした、恋に想いを馳せる。

たった一度の、恋だった。

「その恋は、幸せでしたか?」

「さあて、ね。相手は、幸せになっただろうね」


常に、背を追っていた恋だった。

彼が振り向いたことはなく、立ち止まってくれたことさえなかった。

きっと、背を追っている私には気付かなかったのだろう。

鈍感で、酷い人だった。

でも、好きだった。


< 2 / 7 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop