午後5時17分の彼女~boy's side~
高校に入学して3ヶ月が経ったときだった。
母の体調が思わしくなく、僕は学校をちょくちょく休むようになっていた。
僕はその日のことをはっきり覚えている。
その日は母が入院した次の日のことだった。
放課後、部活の先輩に用があって、僕は2年生の先輩の教室に行った。
「失礼しま……」
2年A組のドアを開けようとしたとき、女の人の怒鳴り声が聞こえてきた。
「ちょっと水川さん。私が昨日掃除をさぼったこと先生に告げ口したでしょ」
水川さんと呼ばれた女子の席の前に茶髪の、クラスでもきゃぴきゃぴ系のグループに入りそうな女子が、腕を組んで立っていた。
「報告もなしにさぼったんだから当たり前じゃない」
「先生に告げ口することないじゃない。ちょっと用事があったの」
「昨日の帰り下山くんとマックにいるの見たんだけど。用事ってデートじゃない。15分くらいの掃除くらいしてから行ったってそんなに変わらないでしょう」
そう言って"水川さん"は文庫本を取りだし、しおりを挟んでいたページから読み始めた。
「……なんなのよあんた。何様?空気読めないの?だから友達できないのよ!」
そう言ってその女子は怒って教室を出ていった。
一日くらい掃除をさぼったくらい、黙ってあげてればよかったのに。
そう思った。
でも怒って彼女が出ていった後の"水川さん" は、文庫本を閉じた。
深い溜め息をつき、儚げに前を見つめる"水川さん"に僕は目を奪われた。
一目惚れだった。