青い夏
「はい、これ」と言って蒼斗に赤いヨーヨーを差し出した。

「なんだよ。お前が持ってればいいだろ?」

「林檎飴のお礼」

「あー成る程な」

蒼斗はヨーヨーを受け取り、遊びだした。

ヨーヨーはまるで手に吸い寄せられるように、離れては戻るを繰り返した。

「ヨーヨー釣りが不得意なの変わっていないね」

「まぁ……な」
と私の言葉に彼は苦笑した。

蒼斗は昔からヨーヨー釣りだけは苦手だった。射的とかは上手いのに、唯一それだけはダメだった。

ふと、ある光景が脳裏をよぎった。

こんなこともあったなぁと懐かしさが湧き出た。

「ねぇ、覚えている?」
振ると、彼は手を止め、私を見た。

「幼稚園のときさ、お母さんたちと一緒に夏祭りに来て、一緒にヨーヨー釣りをしたこと」

脳裏をよぎったのは、ヨーヨー釣りをし終えた後のことだ。

あのとき、私はヨーヨーを十個以上取ったのに対して、蒼斗は一個も取れなくて、むんつけてしまった。
だから私が取ったものを全部上げたら彼は喜び、駆け出して、転んで、ヨーヨーも割れて、蒼斗は水浸しになってしまった。
もちろん膝も擦りむいて、蒼斗は「もう帰りたい」と悲痛の声をあげた。
私はその声が、この世の終わりを嘆いているかのように聞こえた。

そのことを話すと、蒼斗は吹き出した。

「あれは傑作だった! 今思い出しただけでも笑える。お前のおもしろ話もあるぜ」

「そんなのあったっけ?」

「とぼけんなよ。綿飴事件だよ」

「綿飴事件?」
再度首を傾げると、蒼斗は肩を落とし「なんだ、覚えていないのかよ」と残念がった。

「ほら、あれだよ、あれ。お前が綿飴で口元をベトベトにしたやつ」

「あー! あれか!」

同じ頃蒼斗と同様、私にも災難が降りかかった。

おとぎ話から抜け出してきたかのような綿飴を初めて見たとき、私は興奮と興味心をおさえられなかった。
お母さんにせがんで綿飴を買ってもらった。
受け取って食べだしたものの、食べ方が悪かったため、綿飴は徐々に溶け出し、仕舞いには口元と手、それから新しい浴衣をベトベトに汚してしまったのだ。

お気に入りの新しい浴衣を汚し、お母さんにも怒られたため、私は蒼斗ほどではなかったが泣いた。

なんで忘れていたんだろ?

「ホント……!」
私の顔を見て蒼斗は大笑いをしだした。

「そ、そんなに、笑わなくてもいいでしょ!」

「だって、おまえ、かわーー」

「かわ?」

途端に蒼斗の顔色は紅潮し、片手で首を触った。

「なんでもねぇよ……」
蚊が鳴くように蒼斗は呟き、そそくさと歩いた。私と距離をとるかのように。
 
「ちょっと待ってよ! 『かわ』ってなに?!」

「うるせぇ! 俺は何も言ってねぇ!」

変な蒼斗。
< 12 / 18 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop