青い夏
林檎飴
カランコロンと下駄を鳴らし、待ち合わせ場所へと向かう。
嬉しいような、嬉しくないような、複雑な感情が心の中で渦巻いていた。
当然、足取りも遅い。
周りを見渡してみれば、友人同士の集まりや、いちゃついているカップルなどの姿が目に入った。
みんな、お祭り会場へ向かって歩みを進めている。
その表情はとても明るく、恐らく暗い表情を浮かべているのは私ぐらいだろう。
お店のガラス戸に自分の姿が映った。
バカみたいに髪をまとめて、白地に黄色と紺の花があしらわれた浴衣。一文字結びの山吹色の帯。
ガラス戸に手を当てた。
らしくないな。
なんでこんな格好をしたのだろう……。
重い足を動かし、また歩み始める。
沈みかけている太陽が私の影を長くした。
車や、笑い声よりも、悲しい蜩の声と下駄のカランコロンという音が、何故か妙に、鮮明に聞こえた。
◆ ◆ ◆
顔を上げると、いつの間にか、待ち合わせ場所である神社の手前まで来ていた。
玉垣に誰かが寄りかかっていた。
少しだけ、駆け出す。
携帯をいじりながら寄りかかっている男性に「あのー」と恭しく声をかけた。
携帯から顔を上げ、振り向いた彼にはっとする。
彼もはっとしたような表情を浮かべた。
「ゆき?」
彼は尋ねた。
私は頷く。
「蒼斗?」
今度は私が。
同じように彼も頷いた。
「久しぶり」
彼が言った。
「……久しぶり」
声を振り絞るかのように、私は言葉を発した。
目前の男は『蒼斗』の面影を持っているが、背丈は各段に伸び、雰囲気も大分違う。
こんなにかっこよかったっけ?
記憶の中にいる『蒼斗』とはずいぶん違う。
そりゃそうか。
八年も経てば人は大分変わる。特に成長期真っ最中の男子なら尚更。
「悪いな、付き合わせて」
「別に。家に居て、暇をもてあそぶよりはまし」
なんでだろう。
初めまして、の関係ではないはずなのに、新学期に味わうあの緊張感を覚えた。
「お前は相変わらず、可愛げがないな」
「余計なお世話」
素っ気なく返した。
蒼斗は微笑み、私も微笑んだ。
「行くか」
と蒼斗は手を差し出した。
「なに?」
「ガキのころみてぇに、手でもつなぐか?」
「………はぁ?!」
驚きのあまり、声を上げた。
蒼斗の手がのび、私の手を掴むーーのかと思いきや、掴むどころか私の額にデコピンを食らわしてきた。
「イッタ!」
打たれた箇所がじーんと痛くなる。
「ちょっと蒼斗!」
「バーカ。真に受けすぎ」
蒼斗は幼い頃のような屈託のない笑顔を見せた。
額をさすり、あぁ、やっぱり姿形は変わっても、蒼斗は蒼斗だ、とそんなことを思った。
「ほら、行くぞ」
蒼斗は先に歩き出した。
「待ってよ」
私は彼の後を追いかけた。
嬉しいような、嬉しくないような、複雑な感情が心の中で渦巻いていた。
当然、足取りも遅い。
周りを見渡してみれば、友人同士の集まりや、いちゃついているカップルなどの姿が目に入った。
みんな、お祭り会場へ向かって歩みを進めている。
その表情はとても明るく、恐らく暗い表情を浮かべているのは私ぐらいだろう。
お店のガラス戸に自分の姿が映った。
バカみたいに髪をまとめて、白地に黄色と紺の花があしらわれた浴衣。一文字結びの山吹色の帯。
ガラス戸に手を当てた。
らしくないな。
なんでこんな格好をしたのだろう……。
重い足を動かし、また歩み始める。
沈みかけている太陽が私の影を長くした。
車や、笑い声よりも、悲しい蜩の声と下駄のカランコロンという音が、何故か妙に、鮮明に聞こえた。
◆ ◆ ◆
顔を上げると、いつの間にか、待ち合わせ場所である神社の手前まで来ていた。
玉垣に誰かが寄りかかっていた。
少しだけ、駆け出す。
携帯をいじりながら寄りかかっている男性に「あのー」と恭しく声をかけた。
携帯から顔を上げ、振り向いた彼にはっとする。
彼もはっとしたような表情を浮かべた。
「ゆき?」
彼は尋ねた。
私は頷く。
「蒼斗?」
今度は私が。
同じように彼も頷いた。
「久しぶり」
彼が言った。
「……久しぶり」
声を振り絞るかのように、私は言葉を発した。
目前の男は『蒼斗』の面影を持っているが、背丈は各段に伸び、雰囲気も大分違う。
こんなにかっこよかったっけ?
記憶の中にいる『蒼斗』とはずいぶん違う。
そりゃそうか。
八年も経てば人は大分変わる。特に成長期真っ最中の男子なら尚更。
「悪いな、付き合わせて」
「別に。家に居て、暇をもてあそぶよりはまし」
なんでだろう。
初めまして、の関係ではないはずなのに、新学期に味わうあの緊張感を覚えた。
「お前は相変わらず、可愛げがないな」
「余計なお世話」
素っ気なく返した。
蒼斗は微笑み、私も微笑んだ。
「行くか」
と蒼斗は手を差し出した。
「なに?」
「ガキのころみてぇに、手でもつなぐか?」
「………はぁ?!」
驚きのあまり、声を上げた。
蒼斗の手がのび、私の手を掴むーーのかと思いきや、掴むどころか私の額にデコピンを食らわしてきた。
「イッタ!」
打たれた箇所がじーんと痛くなる。
「ちょっと蒼斗!」
「バーカ。真に受けすぎ」
蒼斗は幼い頃のような屈託のない笑顔を見せた。
額をさすり、あぁ、やっぱり姿形は変わっても、蒼斗は蒼斗だ、とそんなことを思った。
「ほら、行くぞ」
蒼斗は先に歩き出した。
「待ってよ」
私は彼の後を追いかけた。