兄さん、壊して
クルリと振り返って、私の顔を直視した。


「火傷がなかったら僕を思い出さないの?」

兄さんの丸い、大きな瞳が潤んでくる。


ああ、ごめんなさい……。

違うの。泣かないで。


「違います。私はずっと兄さんのことを考えています」

「そう。良かった」

目尻に涙を溜めたまま、にっこりと微笑むと兄さんは私を力いっぱいに抱き締めた。

ぎゅーっと、全身が締め付けられる。


「僕も雪の事だけを考えてるよ」


知ってます。分かります。

だって、私達は双子ですから。


言おうとした言葉を飲み込んで兄さんの胸で落ち着いた。


生まれた時は同じサイズだったのに今や、見上げないと目が合わない。

女子では背が高いとされる163センチも、185センチの兄さんの前では、子供にすぎないんだ。


「……ああ、焦げた匂いがします」

「そうだね。また焦がしてしまったみたいだ。捨てないと」

兄さんはふっと笑うと、焦げてしまった炒め物を黒い袋の中に投げ入れた。

どうやら私の町は最近からゴミの収集方法が変わったみたいで、生ゴミにプラゴミ、全てが黒い袋で統一された。

同じ袋だから楽だけど、すぐに溜まってしまう。


「ゴミ捨ては僕がするから気にしなくて良いよ」

「そんな。私にも仕事をください」

掃除も、家事も、洗濯も、全部兄さんにやってもらっている。

少しくらい私にも仕事がないと、存在している意味を感じられない。

必要ないよって兄さんに捨てられる時が来るかもしれない。


……そんなの、想像したくない。


「何言ってるの。僕の側にずっといてくれる。それが雪の一番の仕事でしょ?」

「でもっ……」


「僕は聞き分けのない子は嫌いだよ」


目の前が真っ暗になった。


キラ、イ?


兄さんが、私のことを、嫌いだよって、言った。

なら、私が現世に存在する意味なんて、ないじゃないか。


「……ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!!嫌いにならないで!!良い子にしてるから!!嫌わないで!!」


バリバリ。

ガリガリ。


頭を掻いて、頬を掻いて、疼きを冷ます。


兄さんに捨てられるんなら、こんな体なんて必要ない。

朽ちてしまえば良いんだ。
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