兄さん、壊して
消えて消えて消えて消えてしまえば、兄さんは私のことを、嫌いにならない。よねよねよね、よね?


「雪。僕には雪しかいないんだ。自分で自分を傷付けないでおくれ」

あ、や、だ。

やだやだやだ、兄さん。泣かないで。


兄さんはぎゅっと、私を抱き締めて優しく頭を撫でてくれるけど、肩に落ちる滴が告げる。


「わた、私も、兄さんしかいないです……兄さんしか要らないです……」

「ん」

お互いにすがりつくように、抱き締め合う。

強く強く、背中にアザがつく位に強く抱き締めることで、この世に存在していると自覚できた。


「じゃあ、ご飯作らないとね……」

兄さんは最後に私の頬を撫でると、料理を再開させた。

思わず料理なんてどうでも良いとヒステリックに喚きたい衝動に刈られたが、必死に抑えた。


兄さんを困らせたくないもの。


でも、本当はご飯なんか食べなくても良い。

お腹も空かないし、食べるために兄さんと触れあう時間が少なくなるのなら、必要ない。

けど、食べないと兄さんが悲しい顔をするから、仕方がなく摂取している。


「ほら、朝ご飯だよ。席について」

「はい、兄さん」

兄さんは出来上がったフレンチトーストを面前に置くと、私の隣に座った。

パン一枚を、私と兄さんで半分に分け合うだ。

育ち盛りの兄さんには少なすぎるんじゃないかと、聞いたが兄さんは大丈夫だと笑ってた。

私と同じで小食らしい。


「いただきます。……おいしっ」

「そう、良かった」

兄さんはフレンチトーストよりも甘い笑みを見せると、一口かじった。

「甘過ぎやしないかい?」

「兄さんの味付けは絶妙です。お店持てますよ」

「そりゃありがとう。後はあげるよ。お腹がいっぱいなんだ」


二、三口かじっただけのパンを私のお皿の上に置いた。


「……ありがとうございます」

兄さんから物をもらえるのは嬉しい……けど、兄さんが何か口にしているところは見ていない。

まさか、私の監視の及ばないトイレでつまみ食いでもしているのだろうか。


なにはともあれ。


「……おいしっ」


最後まで美味しくいただきました。
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