兄さん、壊して
登下校は兄さんと手を繋いで、徒歩というルールがある。

私が駄々をこねて無理矢理作ったものだ。


これが出来ないのなら、ランクを二つ上げてまで兄さんと同じ進学校に入った意味がない。


本当は兄さんと同じクラスで兄さんと一緒に授業を受けたいのだけど、そこまでの駄々は私達に寛容な先生方でも聞き入れてくれないだろう。


「じゃあ、気を付けて」

兄さんは進学コースの教室前まで行くと足を止めた。

いつもここまで送ってくれるのだ。

兄さんは正反対に位置する特進コースなのに。


「ん。兄さんもですよ」

熱い包容を交わして、名残惜しくも互いに離れた。

兄さんがいない!と、今にも発狂してのたうち回りそうな全身を押さえつけて一歩一歩、踏みしめる。


こんな苦しい思いをするのなら、学校になんて行きたくない。

兄さんと二人っきりで、家に閉じ籠っていたい。


けれど、兄さんはそれを拒む。


『雪だけには真っ当な人生を歩んで欲しい。それには勉強が必要なんだ』


って。


兄さん、勘違いしてるよ。

私にとっての真っ当な人生は兄さんと二十四時間側にいることなんだから。

勉強なんて必要ないんだ。



「おっはよー。佐々木さん」


待ち構えてたと言わんばかりに、扉の前で仁王立ちするゴミを通り過ぎて、別の扉から入った。

荷物を下ろして、イヤホンを耳にはめる。

兄さんが近くにいない外界と遮断するために。


「ちょ、ちょ。佐々木さん。俺、挨拶したよな?」


いつからゴミにも話す機能と、イヤホンを取る機能をつけたんだ。

頭髪を金色に染める暇があるのなら、その無駄な機能を排除すべきだ。

「クラスメートが話しかけてるんだから、返事くらいしないとー」

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