兄さん、壊して
ゴミが私にまとわりつくのは最近の話ではない。


入学当初から、様々なゴミが私の周りでうろちょろしていた。

金色の頭のゴミは初めてだが、どうせすぐに興味を他に反らすだろう。


ゴミだから。


「俺のこと、覚えてないの?」

哀れみの視線をぶつけるゴミから視線を反らし、机に突っ伏した。

これなら、ゴミもどうすることも出来ない。


「ねえってば」


ゴミは大きくため息をついた。

そして。


「いやぁあああああああああああああああ!!!!!!」


肩に、触れてきた。

嫌だ、嫌だ、イヤダイヤダヤダヤダヤダ。

兄さん以外に触られてしまった。


汚い汚い汚い汚い、消えてしまえ。死んでしまえ。


「ちょ、佐々木さん?え、何。どうしたの?……ヤバくない?」


これはゴミじゃない。

もっと下等な、屑な、最低な生物、……男だったんだ。

触られた部分をかきむしり、叫んで、汚れを洗い落とす。

止めろ、触るな。近付くな。穢れた男が。


赤い液体が、宙を飛ぶ。


汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚いっ!!!!!!




「雪」



あ。

やだ。兄さん、私を見ないで。


「大丈夫だよ、怖くない」



汚い男に触られてしまった私を見ないで。



「雪には僕がいるからね」



兄さんは、座り込む私に手を差しのべて、抱き締めてくれた。

兄さんの胸の中で、せきをきった様に涙がこぼれ落ちた。


欠落したと思ってたこの感情、まだあったんだ。


「兄さん、兄さん。兄さん兄さんっ……」

「大丈夫、大丈夫」

兄さんの大丈夫は、世界で一番信頼出来る。

逆に兄さん以外の言葉なんて、信用したことはないのだけど。


暖かい胸は心地よくて、徐々に瞼が重くなっていった。
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