オフィスにラブは落ちてねぇ!!
立ち上がってキッチンに向かう愛美の後ろ姿を愛しそうに眺めながら、緒川支部長はいつもより少し速い鼓動を落ち着けようと、愛美には気付かれないように深呼吸をした。
コーヒーを淹れた愛美はカップをローテーブルの上に置いて、ベッドにもたれて緒川支部長の隣に座った。
緒川支部長はコーヒーを少し飲んで、ゆっくりと話し出す。
「初めて会ったのはね…俺がまだ新入社員の時なんだ。愛美、高校生の時、小さい喫茶店でバイトしてなかった?」
「えーっと…。あ、した事あります。高2の時だったかな…。そのお店でバイトしてた友達が足を捻挫して、代わりを頼まれて1週間だけ。」
緒川支部長は、なるほどとうなずいて話を続ける。
「そうか…。だから、次の週もその次の週も、お店に行っても会えなかったんだ。」
「お客さんとして来たんですか?」
「うん。新入社員の頃に、あの辺りを週1で訪問してた時期があったんだけど…もう全然ダメで。自分に自信もないし、そんなんでもちろん契約ももらえないし…やっぱり俺にはこの仕事無理かなぁって毎日思ってた。」
今の緒川支部長からは想像もつかないような新入社員の頃の話に、当たり前ではあるけれど、最初から仕事ができたわけではないんだなと、なんとなく親近感が湧く。
「支部長にもそんな時期があったんですね。」
「うん。夕方までずっと歩き回っても話を聞いてももらえなくて。疲れてあの店に入って、もう会社辞めちゃおうかなって思いながらコーヒー注文したらね…かわいい女の子がコーヒー運んで来て、“お疲れ様”ってニコニコ笑いながら、チョコレートくれた。帰り際も“お仕事頑張って下さいね”って笑って送り出してくれたんだ。それが愛美。」
「あ…確か、ホットコーヒー注文したお客さんにはチョコレート渡してました。」
「そうみたいだね。他のお客さんにも同じようにそうしてたのかも知れないけど…それでも、すごく嬉しかった。愛美のおかげで、もう少し頑張ってみようかなって思えたんだよ。」
「そんな事で…?」