オフィスにラブは落ちてねぇ!!
愛美はかつて自分が言ったはずの言葉を聞いて、その時はまだ優しかった泰士の事を思い出し、ため息をついた。

「それ、さっきのあの人の事です。その時はそうだったんですけど…。」

緒川支部長は、少し悲しげな愛美の頭を優しく撫でた。

「そっか…。俺もそんなふうになれたら愛美に少しでも近付けるかなぁって…それからしばらくして愛美は人事異動で支社からいなくなったけど、話し方とか見た目とか…とにかくいろいろ自分を変える努力はした。」


“政弘さん”が別人のような“緒川支部長”を自ら“作った”きっかけを知らなかった愛美は驚いた顔をしている。

「仕事中に別人みたいになったきっかけって…私…?」

「おかげで業績めちゃくちゃ伸びて、2年後には一気に支部長に昇進した。愛美はそういう男が好きなんだと思ってたのに、3ヶ月前に愛美が今の支部に配属されて、なんで初日からこんなに愛美に嫌われてるんだろうってショックだった。」

「ごめんなさい、過去のトラウマで俺様タイプは苦手になったんです。」

「そんなの知らなかったからな…。愛美、高瀬とか職員さんには笑ってても、俺にはいつも無愛想で…。せっかくまた会えたのに高瀬に愛美を取られるかもって、焦って告白したらめちゃくちゃいやがられたし…殴られたし…。」

「だって…強引だったし、イヤだって言ってるのに無理やりあんな事するから。」

愛美にそう言われると、緒川支部長はバツの悪そうな顔をした。

「だよね…ごめん。」

「今でも支部長は苦手だけど…ホントの政弘さんは好きです。」

「それが一番嬉しい。愛美には作り物の俺よりホントの俺を見て好きになって欲しいから。」

< 102 / 112 >

この作品をシェア

pagetop