オフィスにラブは落ちてねぇ!!
「あんまり隙を見せると、犬が狼になるよ。」

「それって…。」

緒川支部長は言葉を遮るように愛美の頭を引き寄せて唇を塞いだ。

いつもは優しく触れるだけだった唇が、貪るように愛美を求める。

柔らかく絡め取られた舌が逃げ場を失って、愛美は甘い吐息をもらした。

長いキスの後、緒川支部長は愛美を強く抱きしめて、切なげな声を絞り出した。

「俺も男だからね…。好きな子と一晩中一緒にいて、なんにもしないでいられるほど余裕ない。」

「それでも…一緒にいたい…。」

緒川支部長は一度、抱きしめる腕にギュッと力を込めた後、その力をゆるめて手を離した。

「ものすごく嬉しいけど…今日はなんの準備もしてないから…やっぱダメ。愛美の事、ちゃんと大事にしたい。」

(そんな優しい事言われると、これ以上なんにも言えないよ…。やっぱりズルイな…自分からあんなキスしたくせに…。)

もしかして“お預け”されているのは自分の方なのかもと思いながら、愛美は緒川支部長のシャツの袖をつまんだ。

「それじゃあ…もう少しだけ。」

「うん…じゃあ、少しだけ。」

肩を寄せ合い、指を絡めて手を繋いだ。

温かく大きな手に安心する。

(幸せ…。余計に離れたくなくなっちゃう…。)

チラリと横顔を見上げると、緒川支部長は何かを考えているようだった。

「さっきの話…愛美が支社から異動した後にね…愛美には彼氏いるし、職場も別々になって会う事もなくなったし、俺もいい歳だしあきらめようって、その時は思ったんだ。」

(私はその後もろくな人と付き合ってなかったな…。)

「それから何人かと付き合ってみたけど…誰も本気で好きにはなれなかった。誰もホントの俺を見てくれなかったから疲れたし、仕事忙しいと余計に会うのもしんどくなって、長続きした事ない。」

「私ともいずれそうなる…?」

「ならないよ。愛美は…今目の前にいる俺を見て好きって言ってくれたんだよね?」


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