オフィスにラブは落ちてねぇ!!
ようやく定時になり、愛美はいつものようにデスクの上をきちんと片付けて席を立った。

(よし、今日はマスターの店に寄って飲んで帰ろう。)

普段、職場では清楚で優しい内勤さんを装っているが、仕事の後は週に2度ほど、一人で行きつけのバーに寄る。

そこでマスターと他愛ない話をしながらのんびりとお酒を飲むのが楽しみだ。

職場での飲み会などはあまり好きではなく、誘われても理由を付けて断り、滅多に顔を出さない。


「それではお先に失礼します。」

愛美がニッコリと笑って軽く頭を下げると、営業職のオバサマたちが笑ってお疲れ様、と声を掛けた。

歳の離れたオバサマたちは、まだ若くてかわいい愛美をかわいがってくれる。

若い女性営業職員は珍しい上に、独身の女性営業職員は滅多にいない。

たまに若い独身の女性営業職員が入社しても続かない人が多いので、営業職ではないが支部の中で愛美は貴重な若い女性だ。


「あっ、菅谷さん、お疲れ様です。」

愛美が支部を出ようとした時、出先から若い男性職員が戻ってきた。

「高瀬FP、お帰りなさい。お疲れ様です。」

高瀬FPと呼ばれたその男は、腕時計を見てため息をついた。

「あー、もう定時過ぎちゃったんですね…。」

「何か急ぎの仕事でもありました?」

「申し訳ないんですけど…1件だけ、お願いできますか?」

「いいですよ。」

(帰るとこだったけど…高瀬FPの頼みならまぁ仕方ないか…。)

愛美は再び内勤の席に着いて、高瀬FPから書類を受け取った。

「すみません菅谷さん、もう帰られるとこだったんですよね。」

「ええまぁ…。でもこれならすぐ済みますので大丈夫です。」

「ありがとうございます。」


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