オフィスにラブは落ちてねぇ!!
それからしばらく経って、愛美の二日酔いが少し落ち着いた頃。

緒川支部長が用意したコーヒーやトーストなどで軽い食事をした。

支部にいる時は顔を見るのも嫌なはずの緒川支部長の部屋で、二人で向かい合って食事をしている事を、愛美は不思議に思った。

いつものスーツ姿とキチッと整えた髪型ではなく、カジュアルな服装で、少し長めの前髪を自然に下ろした髪型で、黒いフレームの眼鏡を掛けている。

見た目の違いはただそれだけなのに、声や話し方、表情や仕草まで柔らかい。

(ホントに別人みたい…。)

愛美が向かいに座っている緒川支部長の顔をしげしげと眺めていると、緒川支部長は少し照れ臭そうに笑った。

「ん…何?」

「いや…別人…じゃ、ないですよね?」

「え?」

緒川支部長が不思議そうに首をかしげる。

「だって…支部で仕事してる時と全然違うから…。」

「ああ…あれはね…作ってるから、ある意味別人かも。」

「作ってる…?」

「俺、ホントは人の上に立つようなタイプじゃないから。ただでさえほとんどの職員さんたちより歳下なのに、頼りない上司だと職員さんたちに示しがつかないと思って…数字も上げなきゃだし実は結構必死。」

今、目の前にいる緒川支部長が、マスターが言っていた本来の緒川支部長なんだなと、愛美は妙に納得した。

「そのせいで愛美には大嫌いって言われて、かなりヘコんだんだけど…。」

緒川支部長の思わぬ一言に愛美はうろたえた。

「えっ…それは…。」

(その通りなんだけど…。そんな直球で…。)

緒川支部長はうろたえる愛美を見て笑みを浮かべながらコーヒーを飲んだ。

「猫アレルギーで猫は飼えないのに、俺より猫の方がましだとか言われたし…。」

(ああもう…!なんでそんな事ばっかり覚えてるかな…。)

「仕事してない時の支部長は猫じゃないですね…。犬猫どちらかと言うと、むしろ犬です。」

「じゃあ犬は生理的に受け付けないって事はないの?」




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