オフィスにラブは落ちてねぇ!!
キーボードを叩きながら、一人で大丈夫だろうかとか、もしかしたら熱があるというのは嘘で自分に会いたくなくて休んだのかもなどと考える。

パソコンの横に置いたスマホの画面を開いても、愛美からはなんの連絡もなかった。

やっとの思いで愛美と付き合えるようになり、やっとほんの少し笑ってくれるようになったのに、前よりもっと嫌われてしまったのかもと不安になる。

今日こそは早く仕事を終わらせて愛美に会いに行こうと、緒川支部長はいつもより気合いを入れて猛スピードで仕事を進めた。





お昼前。

愛美は寝汗で濡れたパジャマを着替え、ミネラルウォーターで水分補給をした。

相変わらず熱は高く、一向に下がる気配がない。

薬を飲むために何か胃に入れようと、冷蔵庫を開けた。

食欲も料理をする気力もなく、ヨーグルトくらいなら食べられそうだと冷蔵庫から取り出した。

愛美はスプーンを口に運びながら、ぼんやりと考える。

病気をしても看病してくれる人もいない。

緒川支部長はきっと何食わぬ顔で仕事をしているのだろう。

電話にも出ないでいる事に腹を立てているだろうか?

それでも、心配くらいはしてくれるだろうか?



解熱剤を飲んだ後、愛美はまたベッドに横になり眠っていた。

熱のせいで体がだるく、寝たり起きたりを繰り返した。

浅い眠りの中で、悲しかったかつての恋の記憶が蘇る。

何も言わずいなくなってしまった恋人を、泣きながら待ち続けている夢。

約束の時間になっても待ち合わせ場所に現れない恋人を何時間も待っていると、恋人が親友とイチャつきながら楽しそうに目の前を横切って行く夢。

何度もデートの約束をドタキャンされた事について理由を尋ねると、激情した恋人に何度も殴られ乱暴に犯される夢。

うなされながら夢から覚めるたびに、もう過去の事だと安心する反面、信じた人にまた裏切られる事への恐怖がわき上がる。


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