オフィスにラブは落ちてねぇ!!
翌朝。

スマホのアラームで愛美が目覚めた時、緒川支部長の姿はそこになかった。

体温計で熱を計ると、まだ38.2℃あった。

「ん…?」

額に異物感を感じて手を触れると、何かが貼り付けられている。

(冷却シート…?)

ベッドサイドには冷却シートの箱とペットボトル入りのスポーツドリンクが置かれている。

薬を飲むために何か食べようかと冷蔵庫を開けると、昨日まではなかったはずのスポーツドリンクやリンゴジュースのペットボトルと、ゼリーやプリン、サンドイッチなどが入っていた。

そしてダイニングのテーブルの上には、レトルトのお粥やバナナなどが入ったコンビニ袋が置かれている。

(これ…支部長が…?)

緒川支部長はいつまでここにいたのだろう?

緒川支部長が来て散々文句を言った事は覚えているけれど、途中からは曖昧な記憶しか残っていない。

(だんだん体が熱くなって、急に力が抜けて…ベッドに運ばれて…なんだっけ?支部長は何を望んでないって言ったんだっけ?)

それでも、緒川支部長の悲しそうな顔と大きな手の優しい感触だけは、やけに鮮明に覚えていた。

愛美は冷蔵庫の中から取り出したプリンを、スプーンですくって口に運ぶ。

冷たく柔らかな感触が喉を通り、優しい甘さだけが口に残った。


“でも、俺は愛美が好きなんだ…。”


不意に支部長の切なげな声が蘇り、どういうわけかボロボロと涙がこぼれた。

(このプリン甘過ぎる…。甘過ぎて涙出ちゃうよ…。)

甘いものがあまり好きではない愛美は、溢れる涙をたいして甘くもないプリンのせいにして泣き続けた。





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