オフィスにラブは落ちてねぇ!!
仕事を終えて帰ろうと席を立った時、支部の電話が鳴った。

愛美が電話に出ると、かけてきたのは緒川支部長の得意先の社長の奥さんだった。

支部長はまだ出先から戻っていないと伝えると、奥さんは社長の手術が無事に終わった事を支部長に伝えて欲しいと言った。

「この間もお休みの日なのにすぐ来て下さってね…給付金の手続きをして主人のお見舞いに足を運んで頂いて…主人の悩み事にまで長い時間付き合って下さって…。怪我の方も順調に回復してますから、緒川さんによろしくお伝え下さい。」

奥さんは嬉しそうにそう言って電話を切った。

愛美は電話連絡票に記入しながら、奥さんが言っていた言葉を思い出した。

(休みの日…?)

愛美は内勤パソコンを開き、手続きの履歴を見た。

(あ…あの日だ…。)

事故による怪我や入院特約、ガン保険など、生命保険だけでなく損害保険も、たくさんの給付金手続きをした履歴がびっしりと残っている。

ろくに話も聞かず、結局はメールも留守番メッセージも開かないまま消去してしまった。

(言い訳くらい聞けば良かったかな…。)

愛美は電話連絡票を支部長席に貼り付け、ため息をついて支部を後にした。


それから愛美は、更衣室で会った営業部の内勤を務めている同期の友人と、営業所のすぐそばのレストランで食事をする事にした。

愛美が会社帰りに友人と食事をするのは珍しい。

食事をしながらその友人は、もうすぐ結婚する予定だと言っていた。

幸せそうに話す彼女を見ていると、羨ましいような少し寂しいような気持ちになる。

「愛美はそういう話はないの?」

「ないねぇ…。あったらいいんだけど…。今日、お見合いしないかって金井さんに言われたよ。」

愛美は不意に昼間の緒川支部長の事を思い出して小さくため息をついた。

(そう言えば…まだお礼も言ってなかった…。)


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