オフィスにラブは落ちてねぇ!!
高瀬FPの言葉を聞いても、緒川支部長はこちらを見ようともしない。

(もういい…。どうせ私も嫌いだし…。)

「いいですよ。行きましょう。」

「じゃあ荷物取ってきます。」

高瀬FPが荷物を手に愛美のそばに戻って来て、緒川支部長に笑顔を向けた。

「じゃあ支部長、お先に失礼します。」

「お疲れ。」

「失礼します。」

愛美は緒川支部長の方を見ずに、高瀬FPの後ろをついて支部を出た。




緒川支部長はひとりきりのオフィスでため息をついた。

あれからずっと、露骨なくらいに愛美の事を避けている。

安易に次の約束なんかして、また守れなかったらと思うと、“仕事が終わったら会おう”とも“次の休みは一緒にいよう”とも言えなかった。

自分がそばにいても、愛美につらい思いをさせるだけなのかも知れない。


昼間に聞いた愛美の言葉にはショックを受けた。


“いつ帰ってくるかわからないとか、約束をドタキャンされるのはイヤだから…いつも決まった時間に…できれば早めに帰って来られて、休みの日はちゃんと休める人がいいですね…。”


ほんの少し近付けたと思ったのに、自分から誘っておいて約束を守れなかった事で、以前にも増して嫌われてしまったかも知れない。

どんなに好きでも愛美には受け入れてもらえないのだと、どうしようもなく胸が痛む。

ただ、さっき愛美が何かを言おうとしていた事が気にかかった。

約束を守れない人は嫌いだから付き合うのは無理だと言いたかったのかも知れない。

そう思うと、何を言おうとしていたのか自分から愛美に尋ねる事がためらわれた。

このまま何もなかった事にしてしまえば、愛美を抱きしめてキスをした時の胸の高鳴りも、愛美を泣かせてしまった日の胸の痛みも忘れられるだろうか?






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