sweet♡marriage〜俺様御曹司と偽装婚約〜
平屋の一軒家の近くに場違いの高級車が止まる。
以前より錆びれて暗く見える鉄工所の横を通り、玄関の前までくる。
「何だ、怖いのか…?」
呼び鈴を押せずにいる私を見て、一ノ瀬司は言う。
「別に、怖くなんて……」
ただ、顔が合わせ辛いだけ。
お父さんにあんなこと言われて頬を叩かれたっきりだもん。
拳にギュッと力を込めると、ふんわりその手が優しく包まれる。
驚いて顔を上げると、意外にも優しい瞳をした彼と出会う。
「……何て顔をしている。心配するな、俺が何とかしてやる。そういう契約、だろ。」
社交辞令のような言葉なのに、右手を包む手は驚くほど優しい。
そういう、契約。
優しい言葉も、表情も……全て偽装結婚を成立させる為。
彼は割り切って、契約の為にここまでしてくれる。
『ありがとう』と、思わず溢れそうになった言葉を心の奥に閉じ込めた。