あなたへ
「1曲目ーーー!!三代目のRYUSEIーーー!!」
ミリアはマイクで威勢よく叫んだ。そのあとすぐに、あのイントロが始まる。この音、体がムズムズする。サビに近づくにつれてみんなの興奮は最高潮に。間奏では、4人並んでランニングマン。
「こんなに笑ったのはいつ振りだろう??」と思うくらい笑った。でもやっぱり、何か心の奥にモヤモヤがある。そんな私をよそに、ミリアが「二人で歌お??」と極上の笑顔で話しかけてきた。
「うん、何歌う?」と私も笑顔で返す。それと同時にミリアがタッチパネルに曲名を入力し、小声で曲名を私に告げる。その瞬間、明るく、でも少し切ないようなイントロ。
そう、この曲は西野カナの『Darling』。そして初めの節でミリアが歌いだす。そしてミリアが、私に目くばせする。サビは2人で歌う。
「Ah なんで 好きになっちゃたのかな。」
本当だ。なんで私はアスカを好きになったんだろう。歌っているうちにだんだん気持ちが歌に引き込まれて行く。どうしよう。泣きそう……。でも、どうにか無事に最後まで歌い切った。
アスカは………。なんかめっちゃ、ぼーっとこっちを見ている。「なんでこっちガン見してんの??」っとは言えないし。
「ちょっと私、トイレ!!」
そういってこの場を凌いだ。けど、なんでガン見してんだろう??私なんか変な歌い方したかなぁ??でも、思い当たる節はある。私、めっちゃ泣きそうになってたじゃん。ばれたのかな??でもそこまで目がいいのかな?とにかく早く戻ろう。
部屋に戻ってみるとそこでは、アスカがハジの『for YOU。』を歌っているところだった。この曲は私も最近、はまっている曲。
「俺についてこい 未来はもう安泰 愛してるよ お前はどうなんだい?」
ちょっと低めの声。ちょっとくすぐったい気もするけど。心地いい。なんだかあの時のように、優しく包まれてる気分。
「俺についてこい 未来はもう安泰愛してるよ お前もそうなんかい?これからも なにかと世話になるとは思うけど俺がお前を幸せにする。」
「ノア、泣いてるの??」
「え??」
急いで頬を触ってたしかめる。手に少しだけ濡れた感覚。
「え?ちょ、大丈夫か??」
アスカもあわてて駆け寄ってきた。
「ごめんごめん!アスカの歌声、感動しちゃった!!」
とっさにそんな言葉を口にした。
「そーか??そんなに俺って歌うまい?」
「うんっ!私だったら、90点つけるかな。」
「おいおい、残りの10点はどこ行ったんだよ?」
「うーん、顔とか?」
「おいっっ!!」
「「あははっ!!」」
私とアスカのミニコントに、アサヒもミリアも爆笑。「そんなにおもしろかった?」と聞き返すけど、それにも応えられないくらい大爆笑。そして2人の笑いが伝染して、私もアスカも大爆笑。
そのあとは、ワイワイ歌いまくり。それでも時間が過ぎるのは早くて。フロントから電話があり、「あと10分でお時間です。」と言われた。4人みんなで、「「えぇーっ!!」」と言いながらも、片づけを始める。
お金を払ってから、「帰りはバスで帰ろう。」という話になった。バスを待っている間も私たちの会話は尽きることはなかった。
バスの座席は、1番後ろの席。左からアサヒ、アスカ、私、ミリアの順に座る。バスでは私達が下りるところまでは20分かかる。「その間に寝てしまわないように。」と、気を付けていたつもりだったんだけど、寝てしまったみたいで。バス停でミリアに起こしてもらった。
「ごめん、寝ないように気を付けてたんだけど…。なんか、爆睡しちゃった…。本当ゴメン。」
「いーよいーよ。あっちは嬉しそうだったし。」
そういってミリアはくすっと笑った。「あっちって??」と私が聞き返すと、ミリアは、「さぁーね。」と言って小悪魔のような笑顔で微笑んだ。
アスカとアサヒとは、そこで別れた。本当に今日は楽しかった。プリとって、カラオケ行って。ミリアには助けてもらってばかりだった。
あとこれは、ミリアにあとで聞いたことなんだけど、私はバスの中でアスカの肩に寄りかかって寝ていたらしい。そしてアスカも、私に寄りかかって寝てた。けど、アスカは先に起きて自分たちの体勢に驚いてた。
「それと………。」とミリアは言いかけたが、「なんでもない。」と笑顔で誤魔化した。私達もそこで別れたんだけど、私の心にはモヤモヤがまた増えていた。