魔法薬局のバイト事情。
わたしが叫ぶと、ロイ君は両手を離した。

「どうしたんですか、いきなり叫んで」

ロイ君は不思議そうな顔をした。


「何か小さな動物がものすごく速く走っていったの!」


ロイ君は首を傾げた。

あっちの方向、と小さな動物が走っていた方向を指さす。

するとわたしが指さしたあたりの草むらから、ひょっこりと草を掻き分けるようにして顔を出した生物がいた。

ヘーゼルナッツ色のふわふわした毛。

黒色のつぶらな瞳。

ひくひくしている赤い小さな鼻。

出っ歯で白く鋭い歯。

手足は短く、なんだか気が抜けるような顔をしている。


今まで見たことがない生き物だ。


「あれ何だろう?」


わたしがロイ君の方を見ると、ロイ君は目を見開いていた。


「ロイ君?」

どうしたの、と声をかけるよりも前にロイ君は飛び出して行った。

慌てて呼び掛けると、ロイ君は振り返って怒ったように言う。


「あれ、トニアースですよ!」


わたしは目を見開いた。


「トニアースって、あれが!?」


トニアースらしい生き物は赤い小さな鼻をひくひくさせながら、捉えようと走ってくるロイ君の姿をそのつぶらな瞳でとらえると、ひょっこりと草むらに姿を隠した。


「待て!」


ロイ君はその小さな姿を走って追いかけた。


「ロイ君!」

わたしは慌ててロイ君を追いかけた。


「トニアースは小さくて、すばしっこくて、おまけに警戒心が強くて中々姿を現さない。今ここで逃したら、次は見つからないかもしれないんです!」


ロイ君が追いかけるトニアースは、ロイ君から聞いていた通り、丸っこくて、すばしっこい。

自分の身体ほどある長い尻尾をピンと立てて、ものすごい速度で転がるように逃げていくトニアースを必死においかけながら、わたしは聞いた。


「でも、どうやって捕まえるの? こんなにすばしっこいのに!」


するとロイ君は「方法はあります」と言った。


「リア先輩に頼みたいことがあります」


ロイ君は走りながら、胸ポケットから杖を取り出した。


「持ってますよね、ターシャさんが渡してくれたトニアース捕獲用の檻」


わたしは頷きながら、背負っていたカバンからそれを取り出す。

太い針金でつくられた小さなこの檻は、一見すると普通の檻にも見えるけれど、これはターシャさんが直々に魔法をかけて強化した特別なもの。

「トニアースの手足は短いけれどその爪や前歯は鋭いから普通の檻では壊してしまう」と、出発直前ターシャさんが渡してくれたんだ。


「それ、檻の出入り口を開けて空に向けて持っていてください」

わたしは走りながら、ロイ君に言われたように檻の出入り口を開けるとそれを空に向けた。
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