魔法薬局のバイト事情。
「ロイ君、何をする気なの?」


「リア先輩の運動神経、信じてます」


優しいけど真剣な目が、わたしを見つめる。


そのほんの一瞬が、長く感じて。


どくんと、一瞬だけ時が止まったようなそんな感覚がした。


「リア先輩はここにいてくださいね」

「ロイ君!」

ロイ君はわたしの言葉など聞かずに、走りながら杖をかかげ叫んだ。


「氷結―アイス―!」


ロイ君の声と共に地面がピキリピキリとものすごい速さで白く凍り付いていく。

氷が走ってる。

まるで生き物みたいに凍りつかせて進んでいくそれは猛スピードで走るトニアースを追い越すと、空に駆け昇っていくように大きく凍りついた。

それはまるで三角形と空に昇っていくような大きな半円が合体したような滑走路のような形。

坂を登りきると急な下り坂が現れて、下り坂の先には大きな半円の滑走路のような道が続いている。


それが完全に出来上がると、ようやくロイ君は足を止めた。息が上がっているのか、肩を上下させている。


トニアースはというと、氷の滑走路へとまっしぐらに走っていった。

そのまま大きな登り坂を上っていく。

トニアースは短い両手と両足を必死に動かして登るけれど、上り坂の頂上のあたりでその速度は完全に落ちた。

そして頂点を乗り越え、下り坂に差し掛かったところで転がるように猛スピードで滑り落ちた。


そしてその勢いで坂を下りきると、そのまま大きな半円をぐるんと回った。

そしてこちらに向かって、文字通り飛んだ。

元々小さなトニアースが点のように見える。


「リア先輩!」


ロイ君が振り返って叫ぶ。


そこでようやく理解できた。


『リア先輩の運動神経、信じてます』


その言葉の意味を。


だけど、そうは言われても。


「こ…これをキャッチしろとか……そんなのムリだからぁぁああ!」


ロイ君の鬼ぃぃー!


大絶叫しながら、目だけはトニアースの姿を追いかける。


点のように小さかったトニアースが徐々に大きくなっていく。

トニアースは驚きの表情をしながらこちらに向かって飛んで来る。


そして吸い込まれるように私が手に持った檻にボスンと入った。


トニアースは丸まっていた体を起こして檻からの脱出しようとしているけど、ここで逃げられる訳にはいかない。

私は急いで檻を閉じた。


鍵をかけると、ようやくほっと息を吐いた。


「流石ですね、リア先輩」


ロイ君が駆け寄りながら微笑んだ。

その優しい顔にどきりと心臓が跳ねる。
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