魔法薬局のバイト事情。
「んーと、チェアダーフェの根っことピールスの葉っぱ。おまけにネグロムの花滴(はなしずく)だ。

ネグロムの花滴は苦労したぞ。花滴なんてこの時期滅多に見られないからな。

他にもプテッグの枝とニエープの実も必要だったが、そいつらはまだ在庫があったから採ってこなかったんだ」

ターシャさんは顎に手をあて、視線を上に逸らしながら思い出すように答えた。


「あぁ、頭痛薬と睡眠魔法用の解毒剤を調合するのに使ったんですね」

ロイ君はさらりと流れるように言葉を紡いでいく。

ターシャさんは考え事をしていたポーズをパッとやめて明るい笑顔になった。


「さすがは秀才ロイ君だ! 材料名だけで調合物を当ててしまうなんて、君の秀才ぶりにはいつも驚かされる!」


「偉いぞー!」とターシャさんがわしゃわしゃと乱暴にロイ君の頭を撫でたのを、「やめてくださいよ」とロイ君は凄まじく怪訝そうな顔をして反抗していた。


ターシャさんは満足すると、眠たそうに目を擦りながら大あくびをした。せめてあくびをしている間くらいは口を手で覆ってほしいものだ。


「じゃあ、私はもうひと眠りするから」


後はよろしくー、とヒラヒラ手を振りながらターシャさんは店の奥に消えて行った。

本当に自由なひとだとわたしはこっそり溜め息を吐いた。


ロイ君はというと不機嫌そうな顔でターシャさんのせいでくしゃくしゃになったアッシュブラウンの髪の毛を整えていた。

その様子は、まる寝起きのままリビングに現れた弟のようでとても可愛いかった。


「何見てるんですか、リア先輩」


視線に気づいたのか、ロイ君はムスッとした不機嫌そうな様子でわたしに言った。

見てないよ、とわたしは嘘をつく。とても見ていましただなんて言えない。

「リア先輩の嘘はバレバレです。しかもそのニンマリとした不気味な笑顔…何か失礼なことを考えていましたよね」

ロイ君がわたしに詰め寄る。


「何を思ったんですか」

ロイ君がどんどん近づいてくる。

わたしは距離を取りながら視線をさまよわせる。

「いや、えーっと、あの…」

けれどロイ君はそんなわたしを許してはくれない。

「リア先輩?」

何なんだ、後輩のくせに、年下のくせに、抗えない、この威圧感は。

わたしはロイ君の顔色を伺いながら答える。


「その…あの…ロイ君が」

「僕が、何ですか」


しばらくの沈黙の後、わたしは小さな声で言った。


「か、可愛いなーって思っただけ…だよ?」


ロイ君はムスッとした顔で「何ですか、それ」と怒った。眉間にシワが寄っている。

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