魔法薬局のバイト事情。


『おにいちゃんと、あそんでたの。そしたらきゅうにおにいちゃん、たおれて…』

女の子は涙ながらに説明をしてくれた。

どうやらこの子たちは西の国境の町ドリムから親戚の家に遊びに来ていたそうだ。

近所の近くの公園で遊んでいたら急にお兄ちゃんが倒れてしまい、偶然近くにあった、このターシャさんの薬局に慌てて駆け込んだらしい。

女の子は話し終わると、泣き疲れたのか寝てしまった。

女の子に毛布を掛け、そっと頭を撫でる。

ターシャさんとロイ君は男の子を薬局内に運ぶと、その様子を見ていた。

私も2人の隙間から覗き込むようにして男の子の様子を見る。


「ドラゴン…?」

青い盛り上がった傷跡はドラゴンのような形をしていた。

それは浮き出た直径1センチほどの血管が足に絡みついているようにも見える。

星のない暗い夜空のような色にも見えるその傷跡はすごく不気味だった。


「…エルブ・ノガード・エスルーク、ですか?」

「あぁ、その通りだ。しかも、これはまずいな」

ターシャさんはじっくり傷を観察しながら言った。

そして立ち上がると、薬局の全ての壁に作りつけられた、天井まで届くほどのタンスの引き出しをいくつも開けては何かを探していた。

壁に作り付けられたこれらのタンスには全て薬草などの薬の原材料となるものが保管されている。それらのほとんどはターシャさんがわざわざ出向いて採取してきたものだ。

「あの…エルブ・ノガード・エスルークって何?」

「簡単に言うと、死に至る呪いです」


ロイ君の答えにわたしは息を飲んだ。


「青い血管のような傷跡がまるで蔦のように体に絡みついて、やがて顔にまでそれが達したとき、体は呪いに耐えきれなくなり命を落とします」

「そんな!」

ターシャさんは脚立から降りると、今度は下の引き出しの中を探し始めた。


「西の国境ドリムの古代遺跡にある石像は知っているか?

ドリムの司祭の許可なく古代遺跡にある石像に触れると石像に眠る騎士の霊に呪われるんだ。

その呪いの名が、エルブ・ノガード・エスルーク。

青いドラゴンの呪い、という意味だ。

まるで血管が絡みつくように盛り上がった傷跡が青いドラゴンのように見えることからそう呼ばれている」


ターシャさんは薬局の奥から脚立を持ってきて、隅々まで探し物をしている。
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