魔法薬局のバイト事情。
「そんなに心配しなくても、この呪いの抗呪(こうじゅ)魔法薬は存在する」

脚立を抱えて、ターシャさんは微笑んだ。

抗呪魔法薬は魔法薬の一種で、いわば呪いの解毒剤みたいなものだ。

「じゃあ早くそれを…」

「あぁ、今から調合しようと思ったんだけどな」

ターシャさんは後ろ髪を掻きながら「こんな時に限って」と溜息を吐いた。

「どうしたんですか?」

ロイ君が尋ねる。


「トニアースの尻尾の毛だけが足りないんだよ。困ったな。あれがないと抗呪魔法薬は生成できない」

ターシャさんはそう言いながら考え込むような仕草をした。


そしてわたし達の方を見ると、「2人とも箒で空を飛べるよな?」と問うた。

「もちろんです」とわたし達は頷いた。

スクールの通学手段にも使われているくらい、箒は一般的な移動手段のひとつだ。

「それは良かった。今から2人でリヴェドまで飛んでトニアースを捕まえてきてくれないか?」


「僕ひとりで行けます」


ターシャさんの頼みに、ロイ君はきっぱりと言い切った。


それはまるで、リア先輩は足手まといです、と宣告されているようで。

わたしは今すぐにでもこの場から逃げ出したくなるような胸の痛みを感じていた。


「ロイ君が優秀なことはよく分かっている。けれどリヴェドに1人で行くのはあまりに危険だ。それに2人で行く方が圧倒的に効率がいい」

「でも…」

「君を危険な目に合わせたくないんだ」

「…分かり、ました」


分かったと言いつつも、ロイ君は納得がいっていないようだった。


わたしってロイ君に足手まといなやつだって思われてるんだね。

ちょっと、いや、結構、悲しくなった。

わたしの方が年上なのに、頼りにならないダメなやつって思われているのか。

なんて、こんなこと思っている時点でもうすでに年上らしくない?


ぐるぐる回る自己嫌悪。

はぁ、とバレないように溜め息を吐いた。


ターシャさんはムスッと拗ねたような顔のロイ君に「ありがとう」と微笑んだ。

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