魔法薬局のバイト事情。


「うわ、暗い!」

地面に降り立ち、魔法で箒を片付けると、わたしは辺りを見渡した。

「当たり前です。ここはリヴェドなんですから」

ロイ君は溜め息を吐いた。

「さっさと行きますよ」

「あっ、待って!」

ロイ君の後を追いながら、うっそうとした森の中を歩いていく。

ところどころに落ちる木漏れ日がわずかに光をくれるけど、殆ど日の光が当たらないこの場所は暗い上にジメジメと湿気が多く、樹々の幹は苔生(こけむ)している。

本当ならまだ太陽が空に昇っている時間だけど、生い茂る木々に覆われて、空の色さえ見えないんだ。

それに、森の中はまっすぐな道ではない。

大きな岩がごろごろ転がっていたり、大きな木の根っこが地上に盛り上がって出て来ていたり、まるで森に足を踏み入れた余所(よそ)者のわたし達を拒むように道を塞(ふさ)いでいる。


「ロイ君、トニアースがいそうな場所分かるの?」


ロイ君は、道に転がる大きな岩も、盛り上がった木の根っこも、関係ないと言わんばかりに、簡単にヒョイヒョイ乗り越えていく。

ハイペースでどんどん森の奥へと突き進んでいく彼の後ろを懸命に追いかけながらわたしは尋ねた。


「もちろんです。トニアースはこういったジメジメしている場所に生息しているんです。もう少し進みましょう」


ロイ君はスタスタと歩いていくので、わたしとロイ君の距離がどんどん遠くなる。

ロイ君、速い…!


「リア先輩、遅いです」


わたしの十数メートル先にいるロイ君は、振り返ってわたしに言った。

彼は息も乱れていないらしい。


「ちょ、待って!」


わたしは息を切らしながら、必死に足を進めた。

ロイ君はというと腕組みをしながら眉を潜めて不機嫌そうな様子だけど、とりあえずは待っていてくれた。


「遅いです」

「ごめんって!」


わたしは座り込みながら息を整えながら謝る。

というか、ロイ君の歩く速度が速すぎると思うんですが。

「本当に大丈夫なんですか?
トニアースはとてもすばしっこい小動物なんですよ。今からそれを捕まえるのにリア先輩がこんな状態だなんて、先が思いやられます」

反論しようと思ったけど、その前にロイ君が座り込んでいたわたしにズイッと顔を近づけた。
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