魔法薬局のバイト事情。
視界いっぱいに映るロイ君。


ドクンと心臓が跳ねた。


ロイ君の瞳にわたしが映り込んでいる。


そんなことを意識するとバクバクと心臓の鼓動がなりやまない。


って、何変なことを意識してるんだ、わたし!

相手はロイ君だよ、あの後輩のロイ君だよ!

わたしの頭の中が大いに混乱していることなど少しも知らないロイ君は、口元を少し歪ませた。





「リア先輩、僕を守ってくれるんでしょ?」





意地悪な、笑み。

艶っぽいその声が、さらに心臓の鼓動を加速させて。


顔に熱が集まる。




「まっ、守るよ!」


わたしは大きな声でそう言った。


「へぇ、それは楽しみです」


ロイ君は薄笑いを浮かべながら立ち上がった。


「もういいですか?」


唐突に、ロイ君は言った。


「へ?」

「もう、大丈夫ですか?」


わたしは目を見開いた。


「え…まさか、休憩させてくれてたの?」


わたしは尋ねるけど、ロイ君はプイと顔を横に向けたまま何も答えてくれない。


「ねえねえ、ロイ君」

「うるさいです」


間髪入れず、というか、食いぎみに、ロイ君は答えた。

いつもと同じ言葉遣いで。

いつもと同じ話し方で。


「照れてる?」

「照れてないです」


ただ、いつもと違ったのは、その顔が赤みを帯びていたこと。


「照れてるよね、顔赤いもん!」

「違いますって」


いつもクールで冷静なロイ君の赤らんだ顔が可愛くて、ついついからかってしまう。

「でも、否定しなかったよね? それってわたしの…」

わたしの言ったことが正しいってことだよね?


そう言うよりも先に、ロイ君がわたしの頬を両手で挟んだ。


「ロイ君、なにしゅるんでしゅか」

「リア先輩、調子に乗らないでください。リア先輩のくせに」


調子に乗らないでって、調子に乗ったつもりが微塵もないんだけどな?
それより、リア先輩のくせに、って何?!


「ほんと、リア先輩と一緒にいるとこっちの調子が狂います」


ロイ君は吐き出すように、呟くようにそう言うと溜め息を吐いた。


「しょれってどーゆー…」

それってどういう意味?

そう問いかけようとした時だった。


わたしの頬を両手で挟むロイ君の向こう側で、小さな丸い生き物が視界の右から左へとものすごく速く走っていったのが見えた。


「えっ!?」
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