恋 文 日 和
4
「菊井さん、こっち!」
「は、はいーっ!」
「菊井さん、これ持ってって。」
「はいーっっ!」
目まぐるしくフロアを動き回る。
夏休みというだけあって、毎日がお祭り騒ぎのように忙しい。
せっかく神楽くんと同じバイト先だというのに
この怒涛に押し寄せる忙しさに、全く話せる時間がない。
でも――――…
「菊井、ファイト!」
「か、神楽くんっ!」
時たますれ違う瞬間に、こうして声を掛けてくれる。
その時折見れる笑顔だけで、こんな嵐のような忙しさも
体中を襲う疲労感も
全部、全部
吹き飛んでしまうんだ。
嬉しくて、幸せで。
緩んだままの頬を抑えてカウンターへ戻ると
ちょうど厨房へ向かう時だったのか
リサさんとばっちり視線がかち合った。
う、っと退いたあたしに
「お疲れさま。」
嫌味たっぷりの笑顔が投げつけられる。
「…お疲れさまです、」
甘い、香水の匂い。
俯いた視線が、怖くて上げられない。
事件が起きたのは
それからまもなくの事だった。