恋 文 日 和
ガチャーン!!!
と、けたたましい音を立ててガラスの破片が散らばった。
そのど真ん中に居るあたしに、多くの視線が集中する。
「菊井さん!何してるのよ!」
「す、すみません…、」
慌てて駆け寄ってきたチーフに、あたしは足もとで割れたガラスを拾い上げた。
「触っちゃダメでしょ!高橋くん、ホウキとチリトリ持って来て。」
「はい!」
フロアに広がるお酒とジュースの入り混じった匂い。
それが入ってたグラスは、あたしのトレーから落ち
もう跡形もなくなっていて。
あたしは何度も頭を下げて、ただ謝り続けた。
「…一体どうしたの?最近変よ?」
「……すみません、」
バックヤードに戻って、一言目にチーフに言われた言葉。
「グラスだってタダじゃないの。あんまり割られるとこっちも困るのよ。」
「…はい、本当にすみません。」
俯くあたしの耳に届いたのは、大きな溜め息で。
「集中してちょうだい。」
パタン、と閉じた扉の向こうで
チーフのパンプスの音だけが響いていた。