恋 文 日 和


ザァ、とグラウンドを叩く雨の中
ビニール傘を差した後ろ姿が、呼び掛けに足を止めた。


荒い息を繰り返すあたしへ
ゆっくりと振り返った玲。



「菊井…!」

追い掛けて来た声に止まる事なく
あたしは雨が降りしきる外に、上履きのまま駆け出す。


「学校辞めちゃうって、どうして!?」

掴み掛かったその拍子に
玲の手から傘が地面に落ちた。

容赦なく空から落とされる雨粒は
一瞬にしてあたしたちの体温を奪ってゆく。



だけど、体は熱い。
喉の奥が焼けるように痛くて。


「ねぇ、玲!答えてよ!」

肩を揺さぶるあたしに、玲は虚ろな視線を横に投げていた。


遮るモノなどない
どしゃ降りのグラウンド。

上履きの内側まで染み込んでくる雨が、心地悪い感覚をあたしに伝えてくる。



「…本当に、」

玲は何も答えない。


だからこそ、言葉がどんどん小さくなってしまった。



「本当に…、松本先生と…?」











< 155 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop