恋 文 日 和


今日も、ここに玲の姿はない。


それでも、こうして
教室を見渡してしまう。


『日和!』

呼ぶ声が
聞こえてきそうなのに。

そう呼んでくれる相手は、あたしの隣にはいない。



「日和ちゃん。」

ふいに聞こえた声。


「あ、ご、ごめんね!」

顔を上げると、桜井くんが手のひらを差し出していて
あたしは慌てて、画鋲をその手に置いた。


そんなあたしを見て
神楽くんが声を掛けてくれる。


「今日、俺たちと回ろう。いいよな、俊介。」

「もちろん!つーか、神楽は忙しいんだろ?いいよ、俺と日和ちゃんで回るから。」

「何でそうなるんだよっ!」

ぎゃあぎゃあと
再び言い合いを始める二人に、笑いながら言った。



「あたしは大丈夫。特に見たいのとかないし…。」

「菊井、」

眉を下げて、何か言いた気な神楽くんに
もう一度念を押して言う。


こんな気持ちじゃ、また二人に心配かけちゃうから。


「平気!二人で行って来て。ね?」


せめて、今日くらい
二人には楽しんで欲しいんだ。





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