恋 文 日 和


あたたた…。


人混みの中、よそ見していたあたしは
どうやら人にぶつかってしまったらしい。


「日和、大丈夫!?すみません、この子前見てなくて、」


痛む鼻を押さえたあたしの元に
玲が駆け寄って来てくれて

「す、すみません、あたし…、」

謝罪しようと顔を上げた瞬間、思わず自分の目を疑った。



「いいえ。大丈夫よ。」

ニッコリと微笑んだ彼女に、顔が強張るのがわかる。



記憶が、蘇ってゆく。



ぎゅっと心臓が縮まって。

「…リサさん……。」

その名前を口にするのが
酷く、あたしを苦しくさせた。



「……リサさん?」

玲があたしの言葉に反応を示す。
そして、何かを感じたのか、玲はリサさんに視線を向けた。


目眩のするような香水。


「久し振りね、菊井さん。」


あの日のように
グロスで彩られた唇が、心のない笑みであたしを見下ろしていた。





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