恋 文 日 和
ゆっくりと、その声の方向へ顔を向ける。
見慣れた後ろ姿に
心臓がドクン、と音を立てた。
「初めて会った時から、ずっと好きだった。」
案の定、そこには神楽くんとリサさんの姿があって。
裏庭に続く渡り廊下の隅で
あたしは呆然と立ち尽くした。
…間に合わなかった。
その事実だけが、あたしに襲いかかる。
「あたしと付き合って欲しいの。」
どこか、自信に満ちたリサさんの抑揚がある声。
それがまた、あたしを焦らせて。
「…俺、」
聞こえた神楽くんの声に
ぎゅっと拳を握り、唇を噛み締めた。
今すぐ耳を塞いでしまいたい。
この場所から逃げてしまいたい。
なのに、足が地面に貼り付けられたように動かなくて。
ザァ、と吹き付ける風が
あたしの髪を、涙を揺らした。