恋 文 日 和
思わず顔を上げて辺りを見渡す。
だけど周りに人らしき姿はない。
ただ、笑い声だけが響いていた。
『日和ー?』
一向に階段を上がって来ないのを気にして、手摺から顔を出した玲があたしを見下ろす。
あたしは落ちてきたそれを拾い上げ、小さく呟いた。
『……クリームパン…。』
『へ?』
あたしはもう一度階段の上を見上げた。
そう、落ちてきたのはあんなに走ってまで食べたかったクリームパンで。
運命のいたずらのように降ってきたクリームパンは、まるで彼に引き寄せられるようにあたしの手の中にあった。
その時ピタリ、と止んだ笑い声。
そして、踊り場から下を覗き込んだ人の影が見えた。
『あ、ごめん!やっぱり落ちてたんだ!』