恋 文 日 和
『美咲……。』
神楽くんが、あの子を呼ぶ。
その震えた声が、脳裏に焼き付いて離れない。
耳の奥、どこにいても
何をしていても、ずっと響いてる。
知りたいのに
知ってしまえば、自分の心が壊れてしまうと
あたしはわかっているから。
だから―――…。
「何か、悩み事?」
「え?」
問い掛けに顔を上げると、心配そうにあたしを見下ろす三上くんと目が合った。
「…あ、ううん!ごめんね、」
繕うように慌てて笑顔を作る。
冬を間近に迎えた秋の終わりは、太陽が沈むのも早い。
足早に過ぎる人の群れが、長い影を作りながらあたしたちを追い越してゆく。
その流れに逆らうように
歩みを進めると
「菊井さん、」
呼び止める声が、あたしの背中に聞こえた。