恋 文 日 和
あたし、騙されてたんだ。
『…ありがとう、日和ちゃん。』
美咲さんにも
三上くんにも。
何で、気が付かなかったんだろう。
落ちたカバンからはみ出た神楽くんへのチョコレートに
あたしの心は、今まで以上に痛んで。
「…サイテー…。」
「菊井さん、」
一歩距離を詰めた三上くんに
あたしの思考回路が、遮断された。
それと同時に、涙が溢れる。
「本当、サイテーだよっ!!」
「菊井さんっっ!」
三上くんを横切り、昇降口を飛び出すと
空にはもう、夕焼けは消えかけていた。
最低最悪の
バレンタインデー。
自分の中に、こんなにも醜い感情があったなんて
あたしは知らなかった。
そして、騙されていた自分が
酷く情けなくなった。
2月14日。
バレンタイン。
チョコレートは、全部
跡形もなく
溶けて、消えた。