恋 文 日 和


「…井、菊井、」

「え?」


外に投げていた視線と意識を戻すと

「またぼけっとしてただろ。」

そう言って笑う神楽くんが、プリントをひらりと揺らした。




「あ、ご、ごめんね!」

慌ててプリントを受け取ろうと手を伸ばす。



だけどプリントは一向に神楽くんの手から離れない。

いや、神楽くんが離してくれないのだ。



「か、神楽くん?」

「なーんか怪しいな。」

「へっ?な、何が?」

「何となくだけど……無理してる感じがする。最近の菊井って。」

わかりやすいからな~、といたずらに笑って神楽くんはようやくプリントを離してくれた。





『無理してる感じがする。』

ぎゅっと、プリントを握り締める。



少しの沈黙の後

「別に、何もないよ?」

追い掛けるように神楽くんの背中に言った。



「本当に?」

「うん、本当にっ!さっきだって、早く桜咲かないかなー、と思ってただけだもん!」

「あー、桜ねぇ。すげぇ綺麗だもんな。」

「ねっ!早く見たいよねー!」




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