恋 文 日 和


「あー、春になんて来なきゃいいのに。」


体育が終わり、教室へ続く廊下を歩いていると
玲がぼんやりと外を見つめて言った。


「どうして?玲、この前寒いから早く春にならないかなー、って言ってたじゃん。」

「まぁ、寒いのは嫌なんだけど…。」

「何それ、矛盾してるよ?」

あはは、と笑い
教室の扉を開ける。


どうやら、まだ男子は帰って来てないようで
女子だけで溢れた教室は、あちらこちらから黄色い声が聞こえた。


少しだけ暖かくなってきたような風が、窓際のカーテンを揺らす。



「…だってさ、3年になったら、」

「え?」


追い掛けてきた玲の言葉に、あたしは足を止めた。


「…玲?」

扉の前で立ち止まったまま
一向に教室に入らない玲に、首を傾げて歩み寄る。



「どうしたの…?」

深刻な玲の表情が、あたしの不安を募らせて。



「日和、忘れたの?」

「…何、を?」

顔を上げ、玲が言った言葉に
雨雲が足早に過ぎ去って行くのが見えた。





「3年になったら、クラス替えだよ…?」



ザァ、と通り雨が窓を叩く。


雨粒が、桜の葉を揺らしていた。






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