恋 文 日 和


下校する生徒たちの笑い声が、遠くから聞こえる。
あたしは黙ったまま、花壇に腰を掛けた三上くんの言葉を待った。



三上くんの視線が
座った事によってあたしより下になる。


「あの日…。」

ポツリ、と呟いて
三上くんはまだ芽しか咲いていない桜を見上げた。




「菊井さんに、美咲との電話を聞かれた日…あいつ、引っ越したんだ。」

「……知ってる…。」

「え?」

「…神楽くんから、聞いた。」


あたしの言葉に
そう、とだけ返事をした彼は

「じゃあ、話は早いね。」

再び視線を前に向けて口を開く。





「美咲は、病気なんだ。」

「え?」


強い風が、びゅうっと音を立てて三上くんの言葉を遮ろうとして。



だけど、それは一瞬で吹き止み
静かになった校舎裏に、三上くんの声が鮮明に届いた。




「心臓の、病気。」

ドクン、と鼓動が跳ねる。









< 320 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop