恋 文 日 和


シンと静まったあたしたちの間を
三上くんの声が、沈黙を埋めるように響き渡った。


「それからは、菊井さんの想像通り。」



地面の砂利が鳴って、三上くんがこちらに向いた事がわかる。


「あいつの…美咲の、想いを叶えてやる為に、菊井さんを騙してた。」

「…………。」

「好きだって言って、惑わそうとしたんだ。」

本当にごめん、三上くんは付け足す。



あたしは俯いたまま、顔を上げられない。


美咲さんの為とは言え
あたしが騙されてた事は、紛れもない事実な訳で。

本当は許せないのに、たくさん傷ついたのに


それでも、何故かこの人が憎めない。


理由が、理由だからだろうか。




「……わかった…。」

そう思ってしまう自分を振り払うように、小さな声で呟いた。



「ありがとう、教えてくれて。」

「…本当に、色々とごめん。」

言葉にはせず、首を横に振る。



そして

「ちゃんと聞けてよかった。」

そう言って、ようやく三上くんに笑顔を見せた。



これで、少しはあたしも
前に進めるはず。

ゆっくりだっていい。
人とズレてたっていい。

あたしは、あたしらしく。




< 324 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop