恋 文 日 和
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「よーい、始め!!」
先生の掛け声と共に、裏返しになった用紙をめくる音が教室に響く。
あたしもそれに倣ってテスト用紙をめくった。
シャーペンを持ち、名前を記入する。
次は用紙に散らばった数式に視線を向けた。
一問目は難なく、すんなりと解けて。
勉強の成果か、あんなに苦手だった数学がスラスラと解けていく自分に驚いた。
だけど、テストもちょうど中盤に差し掛かった時、あたしの手が止まってしまった。
『ここは、カッコの中は2次式だから、因数分解して…、』
『あぁー、そっか!神楽くんすごい!』
『あはは、菊井が物覚えいいんじゃない?』
それは何回も神楽くんが教えてくれた、数式。
ノートに書かれた神楽くんの文字を、何度も見ては解いた、問題だった。
…なのに、何でだろう。
どうして?
何か
難しくて解けそうにない…。
ぎゅ、っとシャーペンを持つ手に力が入る。
カツカツと響く、みんなのシャーペンの音。
まるで、自分だけがそこから置いて行かれるような、そんな感覚。
『菊井、本当は数学得意でしょ?』
神楽くんの笑顔が
何だか無性に、恋しい。