恋 文 日 和
だけど、嬉しかった。
こうして喋るのは、あの時以来。
――神楽くんは覚えてないだろうけど……。
「ひ、日和、です…。菊井、日和…。」
「菊井…日和、さんね。」
あたしの名前が、神楽くんの口から呟かれる。
あぁ、あたしの名前、覚えてくれるんだ…。
あたし、今なら空を飛べるような気がする。
…大袈裟かもしれないけど、それくらい幸せだった。
恋い焦がれて、ずっと遠い存在だと思ってた神楽くん。
こうして、話す機会がこんなにも早く訪れるなんて。
「それじゃ、宜しくね。菊井さん。」
「え、あ……。」
ふいに差し出された神楽くんの右手。
ドキドキが、更に高まってゆく。
「…宜しく…お願いします…。」
なんて、選挙じゃあるまいし、お願いしますはおかしいかな?
そう思いつつも重ねた手のひら。
視線を上げた先には
あの日のような、神楽くんの眩しい笑顔。
こうして、あたしの高校2年生の春が始まった。