恋 文 日 和
2
もうすでに夜9時過ぎだというのに
一向に蝉は鳴く事を止めない。
じんわりとベタつく風とは逆に、夜空を埋める星がとても綺麗だった。
「さて、じゃあ始めますか!」
はい、と桜井くんから渡された懐中電灯を受け取る神楽くん。
「本当にやるのかよ。」
「当たりめーだろ!ほら、行って来い!」
しっしと猫を追い払うように、手のひらを振る桜井くんに神楽くんと二人、渋々歩き出す。
暗闇に、二人の足音が重なって妙な緊張感があたしを包んだ。
どうしよう…。
まさか、神楽くんとだなんて…。
『何であたしが神楽くんとなの!?』
『バカだな、日和。あたしが神楽と行ってどうすんのよ?』
先ほどの玲の言葉がやけに頭の中で繰り返される。
『何に悩んでんのか知らないけどさ、聞きたい事、言いたい事あるなら全部伝えてきなよ。』
うう~…。
もう、それどころじゃないよぉ!
緊張のせいか、手のひらに汗が滲んでるのがわかった。
チラ、っと少し前を歩く神楽くんを覗き見すると
桜井くんから受け取った神社までの地図を、懐中電灯で照らして見ている。
その横顔に、胸がきゅんと掴まれた。
…あぁ、何であたしこんなに好きなんだろう。
神楽くんと居ると、心臓が忙しくて大変だ。