恋 文 日 和


「そんなに怖いなら言えばよかったのに。」

そう言いながら、神楽くんは当たり前のように手のひらをあたしに差し出した。


「…え、あ、あの、」

戸惑うあたしをよそに、神楽くんの手が伸ばされる。



月明かりの下で、視線がぶつかった。




「何か、菊井危なっかしいから。」

まるで引き寄せられるように
繋がれた手が、熱い。


大きな神楽くんの手のひら。

それは、あまりに優しくて
温かくて。



「とりあえず、神社探そう。」

張り裂けそうな鼓動と神楽くんの笑顔が、暗闇で弾けた。









――ねぇ、神楽くん。

どうしよう、あたし今
泣きそうだよ。


例え、それが神楽くんの優しさの一つであっても

その一つが、あまりに甘美で。


全然、手放せそうにないんだ。


ズルイ、よね。
彼女が居るって、神楽くんには好きな子が居るって知ってるのに

それでも、どうしてもこの手を離したくないの。


ズルくても、卑怯でも
好きなんだもん。




あたし、神楽くんが好き

……なんだもん。



















< 96 / 341 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop