恋 文 日 和
「そんなに怖いなら言えばよかったのに。」
そう言いながら、神楽くんは当たり前のように手のひらをあたしに差し出した。
「…え、あ、あの、」
戸惑うあたしをよそに、神楽くんの手が伸ばされる。
月明かりの下で、視線がぶつかった。
「何か、菊井危なっかしいから。」
まるで引き寄せられるように
繋がれた手が、熱い。
大きな神楽くんの手のひら。
それは、あまりに優しくて
温かくて。
「とりあえず、神社探そう。」
張り裂けそうな鼓動と神楽くんの笑顔が、暗闇で弾けた。
――ねぇ、神楽くん。
どうしよう、あたし今
泣きそうだよ。
例え、それが神楽くんの優しさの一つであっても
その一つが、あまりに甘美で。
全然、手放せそうにないんだ。
ズルイ、よね。
彼女が居るって、神楽くんには好きな子が居るって知ってるのに
それでも、どうしてもこの手を離したくないの。
ズルくても、卑怯でも
好きなんだもん。
あたし、神楽くんが好き
……なんだもん。