月が満ちるまで
春空に桜

彼女を初めて見たのは、入学式だった。 


そこだけ空気が違っていて、なぜかと思ったら彼女がいた。

まわりに同級生がたくさんいるのに、いちど彼女を見つめてしまうと、もう他に目が逸らせなくなってしまった。


ただ座っていただけなのに、まるでそこだけ深い森の中のように清浄な空気があふれている気がした。


マイナスイオンでも出してるみたいだった。



整った顔をしているけれど、控えめ。


どちらかと言えば華奢なほうで、守ってあげたいタイプとは違って、ひとりでしゃんと背筋を伸ばして座っていた。


同じ学校から来た奴とつるんで、バカ話で盛り上がってても視線が吸い寄せられた。



だから、俺は彼女に一目惚れしたんだと思う。


名前も知らない彼女に。



それから、今もずっと



彼女に惚れているんだ。



理由なんて、ない。


ただ彼女がいることが、出会えたことが嬉しくて。



俺は生きていこうと思えた。


こんな俺でも。



彼女の視界に入って、同じものを見てみたい

どんなことを考えているのか知りたい



彼女のことを知りたくて



それが全ての始まりだった。
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