月が満ちるまで

考えこんだ俺の顔を、彼女が覗きこんだ。

「行こうと思えば行けるの。ただバイトを始めたばかりだから、あまり休めないから」

にこっと笑った。

「わたし、普通の高校生よりはお小遣があるのよ」

少し考えて続ける。

「母子家庭は学費が免除になるの。それでも、父から学費をもらっているから」

そんなに、大したことではないから。

彼女の目はそう言っていた。

両親が揃っていて、何もしなくてもいい生活しか知らない俺にしたら、とんでもない話だ。

でも

彼女はいまの自分の生活しか知らないんだ。

誰かと比べて、

羨ましいだの
劣っているだの
考えないのかもしれない。
彼女からは暗いイメージを受けない。

さらさらと流れて生きていても、心には大切ななにか…よりどころがあるのかもしれない。

どんなふうに育ってきたんだろう。

きっと、おばあちゃんの影響が大きいのだろう。

会ってみたいな

彼女の根っこにある人物に。

「それなら、また誘うよ」

彼女がにっこりした。
その笑顔は花が開いたように明るい、あたたかいものだった。

どうってことない一言にむけられた笑顔に胸があたたかくなる。

ああ、俺はこれが見たかったんだ。

あらためて思う。


俺は彼女に惚れているんだ。

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